【要約】『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』のまとめ

2024年3月25日

この本の概要

この本では失敗から学ぶことの重要性と失敗から学ぶ組織、個人となるために必要な文化、マインドセットが必要なのかを知ることができます。

実際に発生した医療、航空事故などが事例としてあげられており、事故の原因とその事故の教訓から得られた教訓、行われた改善策が紹介されています。また、自転車チームのスカイやベッカム選手の事例も紹介されており、幅広い分野の事例を学ぶことができます。

失敗やミスを隠さないことの重要性

失敗から学ぶことに成功している組織の一例として航空業界が挙げられています。

航空業界では飛行中の機体の高度、機体の傾斜など非常に多くのデータを収集し事故につながる予兆がないかモニタリングされています。また、機長と副操縦士など立場が異なる人に対して適切なコミュニケーションをとる技術を学びます。これは、強すぎる上下関係はチームワークを破壊し、ミスや事故に繋がるという研究結果に基づくものです。

失敗から学べる組織を作るためにはミスを報告しやすいシステム、文化を作ることが必要です。ある病院ではミスを報告した際に処罰するのではなく褒めるようにしたところミスの報告件数が増えました。その報告から学ぶことで安全性を高めることができました。

失敗を認めない心理

人は自分の信念や考えを否定する事実に直面したときに、自分の間違いを認めず事実の解釈を変えてしまうことがあります。自分の信念、考えと事実が異なっている状態になるとストレスを感じます。これを心理学では「認知的不協和」と呼びます。

この認知的不協和はその職業に着くまでに多くの努力をしてきた人ほど陥りやすいです。間違いを認めることがそれまでの自分の努力を否定されるように感じるためです。また、認知的不協和に陥っている人は自分で気づくことが困難です。

試行錯誤の重要性

洗剤などの大手メーカであるユニリーバでは粉末洗剤を製造するためのノズルの改良を行っていました。最初は一流の数学者を集めて理論的なアプローチを行いましたが失敗に終わりました。その後、生物学者が集められました。生物学者のチームは色々な形状のノズルを制作し少し改善が見られたものを元にいくつかのことのなる形状のノズルを作るという生物の進化に似たアプローチを行いました。ユニリーバは当初は生物学者のチームにあまり期待をしていませんでしたが、生物学者のチームはノズルの改良に成功しました。

テクノロジーの進歩は理論と実践の両方によって成し遂げられます。しかし、人は反復作業が多い実践から知識を積み上げるアプローチを疎かにしてしまう傾向があります。

フィードバックの重要性

企業においても時間をかけて計画を立て製品のクオリティを高めてからリリースするよりも、クオリティが低い段階からリリースしユーザからのフィードバックをえて改良していく方が成功しやすいです。実際にリリースしてみると想定していない欠陥が見つかったり、改良のアイデアが得られるからです。

科学的に結果を検証する

中世では患者の血液を抜く瀉血という治療が行われていました。長い間瀉血の効果が信じられていましたが、これは瀉血を行った結果の検証方法に問題があったことが一因です。瀉血を行った患者が死亡した場合、瀉血でも治療できない重病であったとされ、瀉血を行って回復した場合には瀉血の効果はすばらしいとされました。

瀉血を行わなかったらどうなったのかという検証が行われていませんでした。ある手法が有効であるか検証する場合、その手法を適用するグループ(介入群)と適用しないグループ(対称群)に分けて比較するランダム化比較試験を行う必要があります。

成長型マインドセットの重要性

個人や組織が成長するためには成長型マインドセットを持つことが重要です。成長型マインドセットとは人の能力はいつからでも努力によって向上させることができると考えるマインドセットのことです。この成長型マインドセットを持つ人は失敗を成長するために必要なことと前向きに捉えることができます。

感想

仕事での失敗やミスを無くすための対策として、注意して作業する、チェックリストを作る、ダブルチェックを行うなどがあげられることが多いと思います。この本で紹介されているように、失敗に対して様々な科学的アプローチで対策が行われているということが非常に興味深かったです。

私はSIerでSEとして働いています。近年はスクラムに代表されるアジャイル開発を用いたプロジェクトが増えています。その中では心理的安全性や小さな失敗を高速で積み重ねることが重要と言われています。今までは感覚的なものだと考えていましたが、心理学や統計学など科学的根拠に基づく失敗の分析や組織文化の構築が重要であると感じました。

システム開発においても人間が作業しているのでミスは発生してしまいます。小さなミスや問題が起こった時に早く対処することが非常に重要です。ミスを言い出せなかったの後々大きな障害に繋がった、進捗上の課題があったけど期限ギリギリまで頑張ったが間に合わなかった、ということは少なからず発生しています。早めに対処すれば大きな問題になることは少ないので、ミスや問題を報告しやすい組織を作ることがです。少なくとも、ミスした個人を問い詰めたり、上の立場の人間があからさまに不機嫌になるようなことはダメですね。

読書

Posted by fanfanta